ジェットスターの緊急着陸から考える日本流LCCの厳しさ

Fukuoka tower ORANGE LINER139 Declare emergency due to low fuel

(福岡空港 ジェットスタージャパン139便は燃料不足により緊急事態を宣言する。)
 
航空英語の文法通りいけばこんな交信が福岡空港の管制塔にあったはずだ。

福岡空港がざわめき立った事だろう。
9月18日成田発福岡行のジェットスター139便が燃料不足による緊急事態を宣言し福岡空港は緊急着陸の受け入れ態勢を整える事となった。運航中の飛行機が緊急事態を宣言した時はその航空機の能力に合致する近隣の空港はそのリクエストに応じて緊急着陸の受け入れを優先に行わなければならない。
 
滑走路には航空局の消防車や保安車両などが不測の事態を勘案し待機をした中で無事着陸をした。ジェットスタージャパン139便はエマージェンシーリクエスト(緊急事態宣言)をする以前、福岡空港上空で旋回している状態にあった。その旋回理由は福岡空港で起きたバードストライクによる滑走路点検で滑走路が閉鎖になっていた。航空機と鳥との衝突だ。
 
ところで、航空法ではダイバート(着陸地変更)や30分以上のホールド(上空旋回)などに備えて発着地間に必要な燃料よりも多く積む事が定めてられている。では、今回の件で航空法違反を犯して離陸したかと言えばそうではない。着陸後に検査したところ更に50分ほど飛行できる燃料が残されていた。そうなるとエマージェンシーリクエストした理由が全く分からない。
 
むしろ、エマージェンシーを宣言する事で定時性の確保のため優先的に着陸でもしたかったのだろうか。という、うがった見方さえしたくなるくらいの不可解なエマージェンシーランディングだった。
 
さて、日本のLCCは昨年3社がスタートした時にそれがLCC元年とされた。
しかしその3社の状況をみればジェットスターが初年度で5000万豪ドル、日本円で約48億円の赤字を見込んでいれば、全日空エアアジアの合弁で発足したエアアジアジャパンは全日空の資本撤退に伴い日本でのLCC事業からこの10月末を持って撤退。関西を拠点にし、エアアジアと同じく全日空が筆頭株主として資本参加しているピーチアビエーションは約12億円の純損益を計上見込。
 
結果からいえば初年度とはいえ目を覆いたくなるような状況だ。
分かりやすい例えをするとすれば0強1中2弱というところだろうか。
 
問題は2弱だ。この2弱に関しては少なからず日本の航空行政という大きな壁が立ちはだかった事には些かの間違いが無い様に思う。東京を拠点としていた2社にとっては厳しい壁である。東京は東京でも新東京国際空港(成田空港)が拠点では発足当初の様な搭乗率を保つのも厳しくなる。また東京国際空港(羽田空港)を解放してもらえないLCCは顧客囲い込みに関して大きなビハインドがある。そうした理由が2弱を作った大きな理由だとするならば航空行政が壁になったとも言えなくはない。
 
もちろん、それぞれの会社の施策・体制的な事が0強1中2弱に起因する事は間違いない。しかし、長い目で見なければいけないとはいえ2弱の内、今後も事業を継続するジェットスターに関して言えば今回見込んだ巨額の赤字見込みは経営面で大きなビハインドとなる。今後、日本航空(JAL)の支援が見込めるにしても限度というものもある。

そんなところから考えた時、本来あってはならない事だが、何かのメッセージを込めたエマージェンシーでありエマージェンシーランディングだったとは考えたくないが、その様に考えるたくもなる。

であるならば、現在のLCCの存続を考えた時に経営手法の変革、体制の強化が求められるのと同時に羽田の国内線LCCへの開放など航空行政の考え方の見直し、主要空港の着陸料・使用料・駐機料などの低減を目指した見直し、既存の航空会社との共存を目指した施策など行政がやるべき事も多いはずだ。

実際に10月末で国内線事業から撤退するエアアジアのフェルナンデスCEOはこんな事を言っている。

 「間違ったコスト構造と路線選択、間違った人が経営してしまった」
全日空は我々の企業文化を学びたいと言っていたが40年も全日空にいた人が帽子だけ変えても本質は変われない。」

 日本流の経営手法や考え方でLCCを経営すると言う事は極めて難しいと表明したのと同時に、資本撤退をした全日空を痛烈に批判した。しかしその根本あるものは日本の航空行政という障壁への批判であると言う事も捉えておかないといけないのではないだろうか。


今後も同様の事が続いていくことは予想できなくはない。そうなればLCCはその信頼を失い苦戦をしていく事は間違いない事となるが、世界一高い日本の航空運賃に風穴をあけると言って始まった日本のLCCを失ってしまうと飛行機による移動から遠ざかり今以上に日本という国があらゆる面で硬直化する事は容易に予想できる。そうしない為にも航空という業界全体での意識改革が必要なのではないだろうか。