生命保険代理店に関する報道を見ての雑感

時事ドットコム:14年度末までの是正を要求=保険代理店の販売再委託−金融庁

 金融庁は10日、保険代理店による販売の再委託の実態を2015年3月末までに保険業界に是正させる方針を固めた。保険会社への監督指針を改正し、禁止を明確化する。保険会社や代理店による教育や指導が行き届かない再委託先の募集人が、販売手数料の高い保険を薦めるなどの不適切な販売を防ぐ。

 今月15日にも生命保険と損害保険各社に対し、保険業法に基づく報告命令を出し、改善状況を是正後に提出するよう求める。*1

 

という事でこの日、一斉に報道されたのです。

記事を観ていると金融庁がこれほどまでに実情を捉えていないのかと思うと片腹痛い。前に示唆したとおり圧力をかけた会社が、いい気になってあることない事を色々と金融庁に吹き込んだのかと勘繰りたくもなるわけですが。

 

圧力をかけた会社に関しては大手保険会社Nである様です。

俗に言うカタカナ生保・損保系生保を除く日本社と呼ばれる部類の生命保険会社が同調したとかしないとか。この手の話が出てくると業界内では色々な噂話や裏を取っていない情報が多々出てくるのでありますが、どちら様も前に書いた通りで「自分たちの食扶ちを脅かす奴らは許さん。」という事で潰しにかかろうとするワケでして。色々な意味でちっちゃい連中です。

 

そんな事を思いながら色々と記事を斜め読みしていたのですが1つ気になる事があったのです。

委託型募集人の一部で報酬を増やすために顧客に過剰な保険契約を勧めたり、商品説明が不十分だったりする問題があり、金融庁は規制強化が必要と判断した。*2

ちょっと待って下さいよ。

確かに報酬を増やすためにそれなりのことをしている輩も我々の業界にはおりますよ。そこは認めます。間違いなく自らの儲け優先で営業している輩もおりますとも。

 

しかし、商品説明が不十分だったり知識不鮮明だったり、悪質な業法違反を平気な顔でしたり、嘘ついて騙してみたりしているのは圧力をかけたあなた方ですよ。ADRに持ち込まれる案件も圧倒的に多いでしょ。自分達のことを棚に上げて何を仰いますやら。だから食扶ちを減らしてしまったのと違いますか?

と、力いっぱい窘めたい衝動に駆られる気持ちを何とか抑えているのであります。

 

長かった前置きはこの辺にしておいて。

今回の件は保険業界という業界が如何に現実を見ていないかという事を如実に表しているように思うのです。委託型代理店と呼ばれる保険代理店の殆どが「乗合代理店」と呼ばれる複数の保険会社の商品を扱う代理店です。

 

消費者の中に何か購入するときは徹底的に比較をして購入したいというニーズの高まりとともに成長してきた販売チャネルでもあります。その販売チャネルの縮小を狙って自らの売り上げを伸ばそうとする大手社の思惑があっての圧力でなのです。しかし、その思惑は消費者ニーズを全く無視したものでもあります。

 

消費者ニーズを無視した中で大手社は自分達の事情を「委託型代理店」に関わる問題にすり替えた結果、金融庁の中で「委託型代理店」に関して様々な疑問を抱いていた人々の思惑と一致し今回の様な金融庁方針となるわけです。

 

ですが、この件。圧力をかけられる一端は金融庁にもあるのです。

ある新聞記事でも指摘をしていましたが、2001年代理店の再編を進めていた損害保険業界の思惑を受けて保険業法規定を一部改定し、「雇用関係がある者に限る」という文言をはずしたところからこの「委託型代理店」という形態が始まったもので、そのルールを生命保険業界も準用してきたわけです。

 

もちろんそこには募集人が定期的に研修を受けるなどの前提があってのことではありますが、そこが担保できる様に金融庁自らが代理店に対して適切な指導監督をする仕組みを作らず、保険募集に関する責任の所在についてのルールなどを明確に定めてこなかった金融庁にも責任の一端はあるわけです。

 

だからこそ、業界の中では「何を今さら。」という空気が強くなっているという事もあったりするのです。

複数の保険商品を扱うファイナンシャル・プランナーから「一部でも直接雇用が必要になれば、廃業する人も出る」と懸念する。そうなれば、消費者が保険を購入する際の選択肢が狭まるというデメリットが生じかねない。 *3

このような指摘がありますが業務委託をされていた人々の直接雇用に伴って消費者だけではなくそうした形態で保険販売を行う代理店や募集人にも多くのデメリットを伴う事が容易に予想されます。

 

そうしたデメリットに関して金融庁はどの様に対処するのか。その指針を示してからの委託型代理店の禁止ではないかと思慮をしているのであります。我々は監督をするだけだからという理屈で金融庁が考えているとするならば、そんな理屈は通用しないと思うのですがね。

*1:共同通信2014.01.11

*2:日本経済新聞2014.01.11

*3:日本経済新聞2014.01.11